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元気!勇気!感動!ごうつ

G-MEN #20 佐々木恵未さん

?ふるさとのアトリエで ?

はじめに

 部屋に飾られた2ヵ月めくりのカレンダーが最後の1枚となり、いよいよ今年も残りが少なくなったことを実感するようになりました。
 
このカレンダーには、私たちにとってなじみの深い江津の風景が題材として描かれています。やさしいピンクを基調とした独特なその色彩は、あたかも江津が夢の国であるかのように、そこに暮らす私たちにこの1年間心地よいやすらぎを与えてくれました。
 この絵の作者は、江津市在住の童画家・佐々木恵未さん。現在、江津市桜江町の今井美術館では今年と来年のカレンダー原画を中心とした佐々木さんの個展が開催されています

 来年のカレンダーにはどんな絵が描き上げられたのでしょうか。佐々木さんを訪ねてお話を伺いました。

*佐々木恵未さん
佐々木恵未さん

1)シンデレラガール

「“めぐ”は英文科というタイプじゃないよ。」
 東京で女子大の英文科に通っているとき友達から言われたひとこと。それが佐々木恵未さんを童画家の道へ導いたひとつのきっかけだったのかもしれない。大学ではフォークソングクラブでウッドベースを奏で、ときにはヴォーカルも担当した。「そんなふうには見えませんよ。」と佐々木さんの印象を正直に話すと、「でも夢はDJだったんだから。」ともっと意外な返事が返ってきた…。

 佐々木さんが21歳のとき。所属するフォークソングクラブが毎年1回開いていたコンサートのチケットやポスターにイラストを描くことになった。それがとても好評だったことがさらに夢への自信を膨らませていった。
 ところが、順風に大学生活を送っていたはずが、大きな壁に突き当たる。「英文学史だったかな。私ダメなの。もうどうしても年代が覚えられなくって。」たったひとつの単位が取れなかったために留年をしてしまったのだ。しかし、このことが後に大切な出会いに繋がることにもなった。

 大学の講義は1週間に英文学史ひとつだけとなり、佐々木さんはデザインの専門学校に通い始めた。そこで出会ったのがNHKのおかあさんといっしょで放映された“こんなこいるかな”の作者・有賀忍先生。「なぜ佐々木の絵はいいのか。それは佐々木にしか描けない絵だからだと授業中話してくれて…。」
 佐々木さんが通い始めた専門学校で講師を勤めていた有賀先生は、一生の恩師となって今に至る。

 無事に英文学史を克服し、1年遅れて大学を卒業した佐々木さんは、一度ふるさと江津に戻ってきた。東京を離れるとき、有賀先生から童画の展覧会に出品するようにと言われていた。
 そして、翌年24歳のとき現代童画会が主催する展覧会に出品した絵が入選したという連絡を受けて慌てて上京。何も知らずに会場入りした佐々木さんを待っていったのはその年の展覧会のトップとなる現代童画会賞。全国の何千点という中から選ばれるというまさに快挙だった。さらにその年は、講談社童画グランプリでも入賞し、これでやっていけるという自信を持つことができた。

*初めての作品集
初めての作品集

2)引き出しの中身は?

 「引き出しひとつでとにかくひたすら待つんだから、まったく仕事が来ないの…。」輝かしい展覧会デビューを飾ったはずの佐々木さんに、なぜか仕事の話はまったく来なかった。
 「私はイラストレーターじゃないの。イラストレーターにはいろんな引き出しがあって、依頼者のイメージに合わせたものが作れるでしょ。でも私には引き出しがひとつしかないんだから…。」
 個性的な画風と裏腹に、描けるイメージは限られていた。
 そんな佐々木さんに有賀先生からのアドバイスは、「賞を取っただけではダメ。人に見てもらう努力をしないと。」ということだった。

 さっそく佐々木さんは、人に見てもらうために個展を開こうと上京する。初めてのことであてもなく会場を探し回っていると、洒落たらせん階段に、蔦が絡まるかわいいギャラリーを見つけて店内に入った。
 「ここで個展をさせてもらえませんか。」
 まだ仕事もなく資金は限られていたが、思い切って自分に投資をしようとその会場に決めた。
 その甲斐あって個展は成功し、このとき出会った人たちとは今でもつき合いが続いている。そして、童画家としての佐々木さんをその後も支えてくれる力になってくれた。

 個展で手ごたえを得た佐々木さんが東京に活動の拠点を移したのは27歳のとき。以来ふたたびふるさと江津に活動の場を移すまで、プロの童画家として活動を続けることができた。「仕事の依頼がなくなってそろそろ生活に困ってくるでしょ。そうするとまた少し仕事が回ってきたりして、不思議となんとかなったのよねー。」

*開催中の個展のひとコマ
開催中の個展のひとコマ

3)世界に一人だけの私

 平成9年の夏に佐々木さんは桜江町にある今井美術館で個展を開いた。今井美術館はその前の年にオープンしたばかりだったが、佐々木さんの絵を以前から認めておられた今井館長からの誘いで個展の話がまとまった。

 「楽しい絵ですねえ。」この美術館にはさっきまで畑にいたかのような格好で、気軽にお客さんがやってくる。東京とは違った素朴で素直な感想を聞くことができた。
 「東京での個展は仕事上のアピールという意味あいが強いでしょ。全然違うの。」
 仕事として求められる絵を描き続けてきた佐々木さんは、この個展をきっかけとしてふるさとで絵を描きたいという思いを膨らませていった。父親の病気の知らせが届いたのはそんなときだった。

 「私の絵は私にしか描けないという誇りはあっても、仕事の代わりはいくらでもいるの。でも娘は私ひとりしかいないんだから…。」
 平成10年秋。佐々木さんは実家の隣の新しいアトリエにいた。父親の病気の知らせを聞いてから1週間後には荷物をまとめて江津の実家に戻っていた。

*カレンダーの原画のひとつ(甘南備寺)
カレンダーの原画のひとつ(甘南備寺)

4)思い出の中の幸せな世界

 ふるさとに戻った佐々木さんは、大きい絵を描くことやふるさとを題材にした作品の創作に力を注いでいる。特に昨年から手がける江津や近隣のまちの風景を題材としたカレンダーは好評で、今まさに2007年、2008年のカレンダー原画展が今井美術館で開催されている。
 今井美術館での個展も平成9年、平成14年に続いて今回で3回目となり、佐々木さんも時間をぬっては会場に出向き、10年前と同じようにお客さんの感想に耳を傾けている。

 なぜ佐々木さんの作品からは、おもちゃ箱のような楽しさが溢れ出ているのか。その理由について尋ねてみるとこんな答えが返ってきた。「楽しかったキラキラした思い出がたくさんポケットに入ってるの。きっと子供のころの私は本当に幸せに育ったんだと思うの。」

 佐々木さんの絵の中には、様々な表情の人物や動物たちがたくさん登場する。子どもも大人もお年寄りも。怒っている人も泣いている人も…。そのどれもが佐々木さんが幸せだったと振り返る思い出の世界から生まれてくる。
 「怒ってても泣いてても明日にはみんな笑っているはず。」そんな思いが込められた絵だからこそなぜだかみんな幸せな気分に満ちてくる。

 この取材を依頼するため、今井美術館に佐々木さんを訪ねたときのこと。カレンダーの原画をはじめ、作品の中にいる一人ひとりの表情に見入っていると、ゆっくりとしたどこか懐かしい時間が流れ出す。
 「この人とあの人同じ人ですよね?神様だったんですか?」2枚の絵に登場する白装束を着た大きな男の人を指さして、佐々木さんに尋ねてみると、「よくわかったね。この前も小さい子が気づいてお母さんに同じことを言ってたの。あなたの心は子どものように純粋なのかも。」と返された。
 でも、みんなそんな気持ちになりたくて、佐々木さんの絵の前に立つのではないだろうか。

 佐々木 恵未 (ささき めぐみ)
 童 画 家
 (日本児童出版美術家連盟会員)
 江津市嘉久志町
 1955年生まれ

 公式サイト
  http://www.megu-s.com/

佐々木恵未カレンダー原画展


 期間 平成20年1月31日(木)まで開催中
 会場 今井美術館〔江津市桜江町川戸〕  http://www.imai-art.jp/
 内容 2007年・2008年のカレンダー原画を中心に近年の作品を展示

主な賞歴


 現代童画会賞(1979年)
 講談社童画グランプリ優秀賞(1979年)
 大谷美術館絵本原画展佳作入賞(1979年)
 ピノキオ百年記念イラスト展入選〔イタリア〕(1991年)
 子供のための聖書イラスト展入選〔ドイツ〕(1992年)
 TIBIテヘラン国際絵本イラストビエンナーレ入選〔イラン・テヘラン美術館〕(1993年・1999年)

著作


 企業カレンダー(太陽信用金庫・ニッセイ・日本テレコムなど)
 月刊保育絵本の表紙(フレーベル館・ベネッセ)
 生活科教科書(啓林館)
 音楽教科書(教育出版)
 ヤマハジュニアテキストの表紙(財団法人ヤマハ音楽振興会)
 ヤマハジュニアオリジナルコンサートのポスター(財団法人ヤマハ音楽振興会)
 江津有料高速道路トンネル壁画(国土交通省)
 シロトピア博ポスター(姫路市)
 エッセイ(山陰中央新報)

絵 本  人麻呂とよさみ姫(江津市観光協会)
     シンデレラ(住友生命こども文庫)
     はるかぜさーん!(学研)
     はなさかじいさん(主婦と生活社)
     はじめてのめいさくしかけ絵本『ねむりひめ』(学研)
挿し絵  おやゆび姫(学研) ガリバー(講談社)
     金のがちょう・くるみわり人形(講談社)
     長ぐつをはいたねこ・ジャックと豆の木(学研)など


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