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元気!勇気!感動!ごうつ

G-MEN #19 藤田孝一郎さん

?美味しいワインの物語?

はじめに

 江津市江津町はその名のとおり江津市の中心部です。かつては山陰本線JR江津駅が核となって、駅前通りには人の賑わいが溢れていました。
 時代が移り、最盛期と比べて駅前の賑わいが陰りを見せて久しくなりますが、今年の夏に石見銀山遺跡が世界遺産登録されたことが一つの背景となって、江津町では本町地区にちょっとした注目が寄せられています。この江津本町は江戸時代に石見銀山を中心とした幕府直轄領の物資港として栄えた歴史を持ち、天領江津本町甍街道として平成15年度に国土交通省の夢街道ルネサンスに認定されています。
 今回は、駅前通りでワインにとことんこだわった酒屋づくりに挑戦し、江津本町や海岸通りのレトロなロケーションを生かした取り組みを展開しているエスポアたびらの藤田孝一郎さんを紹介します。

*ワイン会の様子
ワイン会の様子

1)海岸通りのワイン会

 どこか懐かしい趣を漂わせる江津町の海岸通り。天領江津本町甍街道の名で注目されるようになった江津本町から続く古い町並みは、江の川沿いのこの海岸通りまで伸びている。
 事前に教わったとおりの目印を探して通りを歩くと、窓の格子から裸電球の柔らかな灯りが漏れてくる1軒の建物に目が留まった。そして、そっと中を覗き込んだ視線の先に、藤田孝一郎さんを見つけることができた。

 中に入ると、お客さんらしき人たち6人がテーブルを囲み、その周りにはずらりとたくさんのワインボトルが並んでいる。この日そろえられていたワインは10種類。その一つひとつに藤田さんが丁寧に説明を加えている。せっかくの雰囲気を壊さないように部屋隅のソファーに腰を下ろして、その話に耳を傾けてみる。

 「ワインを作っている人のこと…。」 「葡萄畑のこと…。」 そして 「ワインの製造過程のこと。…」
 尽きることのない藤田さんのワイン話のペースに合わせるように、お客さんたちの会話やワインを味わうリズムも弾んでいく。

 そしてお開きとなりお客さんたちがその場所を後にしたのは夜10時。ようやく一息着いた藤田さんに「ここは何の場所ですか。」と尋ねると、「ここは自宅ですよ。」という意外な答えが帰ってきた。
 それは2カ月に1度、藤田さんが選んだワインと奥さんが作る料理を味わうワイン会だった。

*藤田孝一郎さん
藤田孝一郎さん

2)フリーターから家業を継ぐ

 藤田さんは、江津市江津町(駅前通り)で家業の酒屋を営んでいる。ワイン会とは日を改めて、取材のために藤田さんを訪ねて話を伺った。

 今から15年前。平成4年に大阪の大学を卒業した後、 藤田さんは、フリーターとして働きながら音楽の道を目指していた。「食って行けないのは分かっていたけど…」と言いつつも当時の頭は長髪だったというところから、すっかり音楽にはまっていたことが伺える。

 それが平成6年にはあっさりと帰江。家業を継ごうと決意した。
 その後5月には、大阪の専門学校に入学。「酒屋の専門学校だから、酒屋の息子ばっかりが集まってる…。」という藤田さんの説明に、そんな学校もあったのかと少し驚いた。そして8月までその専門学校に通い、1年間の研修期間を長野県の酒屋で過ごした。
 「どこがいいかと聞かれたときに、どこでもいいと答えたから田舎の方に行くことになったけど、以前に研修に来ていた人の中には、そこがいやで逃げ出した人もいたみたい…。」
 聞けばアパート、食事付きで月給約3万円というのは少し辛いのかもしれない。

 1年の研修を乗り切った平成7年8月。晴れて酒屋のノウハウを蓄積し、藤田さんは再度帰江する。しかし、これからスタートというそのときには、すでに藤田さんは問題意識を抱えていた。
 「八百屋って何?っていう時代になったけど、酒屋って何?っていう時代もすぐに来るでしょうね。」また、「ビールはもう酒屋では売れないでしょう。たくさん買い込むならディスカウントやスーパーがあるし、今飲みたいと思えばコンビニでいつでも買える。」
 これまでの酒屋ではやっていけないと先を見通したとき、店舗を改装しての新しい店づくりが始まった。

*お店の中の様子
お店の中の様子

3) ワイン500種が並ぶ店

 藤田さんが営むお店の名前は「エスポアたびら」。改装した後の店にはワインの品揃えを充実させた。
 そして、改装オープン から1年経った平成9年。初めてワインの買い付けに渡ったドイツ旅行の後のこと。「これどうすんだよって思いましたよ。」と藤田さんは振り返る。「50ケース600本のワインが送られて来て…。買ったんだから送って来るよね…。」
 当時、十分なワインの収蔵場所がなかったため、少し多かったかとも悔やみながら、自分の部屋にワインを持ち込み、エアコンで温度調節。凍えるような部屋の中で過ごした。

 それでもめげずに、その後も2年連続してフランスやスペインへと買い付けに向かい、今店に並ぶワインの種類は約500種にもなるという。

  今年の6月、数年ぶりに藤田さんがフランスを訪れた1週間後のこと。蔵元のオーナーが初めて江津を訪れ、藤田さんのワイン会に参加してくれたそうだ。その蔵元とは10年来の取り引きがある。
 「あれもこれも扱うよりは、同じ蔵元のワインでもその年の出来がどうだったかを毎年伝えていきたいし、お客さんにもそれを味わってもらいたい。」と藤田さんは考えている。
 また、「どこのお店でもインターネットでもワインは買えるけど、このワインがいくらということだけ。でもお酒や料理の味は、一緒に飲む人や場所によって変わりますよね。」自分が現地で見たこと聞いたことをお客さんに伝えることもまた、お客さんに美味しくワインを飲んでもらう要素だという。ワイン会の取り組みはその象徴である。

*江津本町ふらり
江津本町ふらり

4) 江津本町 ふらり[fula:Re]

 つい先日の10月8日。江津本町でふらり[fula:Re]というイベントが行われた。文化的財産を残す旧街道として夢街道ルネサンスに指定された江津本町のロケーションに、当日限りのこだわりの店を出店させるイベントで、藤田さんはその中心人物の1人でもある。今回3回目となり、定着してきたこともあって、手作りのイベントが約500人のお客さんで賑わった。 

  「あの本町川に沿ってお洒落な店が並んでいるとカッコいいかなあと思ったのがきっかけ。」と話すように、藤田さんがワインを並べるスペースだけでなく、ほかのお店もまた雰囲気や商品の持つ物語を重視している。ここにお店を出す人たちは藤田さんたちから発した人脈がつながりあって集まり、江津の枠を越えて若い人も多い。
 何か楽しいことをやってみようという人たちが、ふらりというイベントが生まれたことでこの江津に集まり、何か楽しませてくれるような期待感を毎回持たせてくれている。

  「こんなことをやったら楽しいよねって言ってるだけじゃあ誰もやってくれないから、自分でやるしかない。」と始まったこのイベントをこれからも続けて行くと藤田さんは言う。さらに「江の川下りとふらりを組み合わせたらきっといいんだけどなあ。」と藤田さんの楽しみは広がっている。

 取材の中で藤田さんに商売について質問したとき「商売は厳しいよね。だから蔵元に出かけて元気をもらってくる必要があるんですよ。」という答えが返ってきた。葡萄と厳しく向き合う一方で、心から豊かに暮らしている現地の人たちのことをすべて伝えたいという思いが商売の楽しみに変わる。
 藤田さんがこだわるワインが熟成するように、また樹齢100年の葡萄の木が50mも根を下ろすと教えてくれたように、商売やふらりに見出した楽しみは、これからも時間をかけてゆっくりと膨らんで行く。

 エスポアたびら 藤田孝一郎 
 酒類小売業 
 江津市江津町
 昭和45年生まれ

 お問合せ 0855?52?2018

 ふらり[fula:Re]へのリンク
  http://fulare.seesaa.net/


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